思いは記念日にのせて

「悠真!」

 怒りを込めて大声で呼んでしまう。
 道行く人までこっちを振り返ってしまうくらいの迫力だったみたいだけど関係ない。

「おー、千晴」

 笑顔で軽く手を挙げる悠真は全然悪びれてないのにイラッとしてしまう。
 いけしゃあしゃあとどういうことよ。
 すると、悠真の隣の女の子がこっちを振り返った。

「――あ、やっぱり」

 一瞬驚いた表情をした女の子はわたしを見た途端、破顔した。
 その笑顔を見て、少し前のことの記憶がスローモーションのように蘇ってくる。

 飛行機でずっとわたしの手を握ったり、ジュースを頼んでくれたりしてくれたあの子。

「こはるちゃん?」
「はい! HAL先生の画集を見てすぐにあの時隣に座った人だってわかりました!」

 こはるちゃんはわたしに駆け寄って来て、ぎゅっと抱きついてきた。

 悠真の画集には、風景画のほかにわたしの絵がこれでもかってくらい載せられていた。
 何度会社の人たちに理由を聞かれたことか。
 しかも最後のページはテーブルに突っ伏して眠るわたしの頬に悠真がキスを落としているものだった。
 自分の顔は髪で隠れるようにしか描いてないくせに、寝ているはずのわたしはうれしそうな表情をしているのが印象的と好評価を得ているらしく、余計に恥ずかしいんだけど……
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