思いは記念日にのせて
 
「私、HAL先生の絵に憧れて美大に進んだんです。今回の個展に行けば千晴さんにも会えるんじゃないかと思って!」
「そこは僕に憧れてでいいんじゃない?」
「いやいや、絵って言ってるし」

 わたしがつっこむと悠真はむすっと唇をへの字に曲げた。
 
「HAL先生、初日に伺えなくてすみませんでした。明日からは自分も行きますのでよろしくお願いします。あと結婚式の方も……」

 貴文さんがずいっと前にでて悠真にぺこっと頭を下げた。
 貴文さんは自身の結婚式に悠真も招待した。
 そして式場の入口に飾るウエルカムボードの作成もちゃっかり依頼したそうだ。意外にも悠真はそれを快く引き受けたのだ。

「あれ、ブーケもらったの?」
「うん、キャッチした。美花さんと茅野くんのおかげで」
「僕たちもしちゃおっか?」
「……なにを?」

 にんまり笑った悠真にさらっと聞き返すとあーあと肩をすくめる。
 みんなも同じようにあーあと声を漏らすから何事かと思って振り返ると小指に何かが触れた感じがした。
 みんなが半笑いでわたし達を見ながら指を差している。
 ふと自分の手に視線を落とすと、悠真の小指が絡められていた。
 顔を上げると勝ち誇った笑みを浮かべた悠真がこほんとわざとらしく咳をひとつしてみせる。
< 212 / 213 >

この作品をシェア

pagetop