思いは記念日にのせて
『悠真、出水のこと好きなんだ』
『……』
なにも答えない悠真にターゲットが変更される。
悠真はわたしを好きとは一言も言っていない。それなのに。
ひてい、してよ。
そう心の中で強く願ったのに、悠真は口を開かない。
その間に教室中にさらに大きな渦がわき起こっていた。
『悠真が出水を好きだってー!』
『出水は? 悠真のこと好きなのか?』
『両思い! 両思い!』
言葉に詰まって答えられないわたしをまた男子がおもしろおかしくはやし立てる。
何度もしつこく手をたたきながら近寄ってきて繰り返される『両思い』攻撃にわたしの感情が爆発してしまった。
『悠真なんか好きじゃない!』
一番前の席だったわたしは悠真がどんな顔をしているのかわからなかった。
もちろん振り返る勇気なんてない。
一瞬静まりかえった教室はすぐに騒がしくなる。
『フラれてやんの、ざまあみろ』
『誰もおまえみたいなデブなんか好きになるわけないよな』
――違う、違う。
心の中で必死にそう叫ぶけど、声にはなってくれなかった。
悠真はなにも反論もせずにいた。そしてすぐに隣のクラスの先生が注意しに来てその場は収まった。
けど、ここからがすべてのはじまりだったんだ。