思いは記念日にのせて
『こら、なにやってる。女子を泣かすんじゃない』
たまたま通りがかった別のクラスの先生がわたしたちの異様な雰囲気を察して声を掛けてくれた。
男子たちは悠真を置いて逃げるように去って行ってしまった。
もう少しで集合時間だしその近くだったから問題ないけど、置き去りにされた悠真は悲しかったと思う。
わたしなら耐えられない。
だけど悠真は口元にうっすらと笑みを浮かべてわたしを見ていた。
その瞳は寂しげに揺れているのに、まるで感情が追いついていない人形みたいだった。
『千晴ちゃん、行こう』
行動を共にしていた子達がわたしの背中をそっと押す。
悠真は、と言いたいのに唇が震えて言葉にならない。悠真から目を逸らせない。
だけどぐいぐい背中を押されて、前を向こうとした時。
『ありがとう――』
目を極限まで細めた最高の笑みを悠真が見せてくれた。
それはとても美しく見えた。
まるで絵本の中から出てきた王子様のように。
そしてその数日後。
――運命の赤い糸って信じる?
謎の言葉を残して、悠真はいなくなってしまった。