思いは記念日にのせて
第九話
「そうだったんだ」
謎の言葉以外のわたしの過去を霜田さんに話してしまった。
わたしはなにもできない臆病者だと思われただろう。
だけどその通りなんだからしかたない。
冷めたオムライスの残りにスプーンを差すと少しだけ堅くなっていて、卵のふんわり感はすでになくなってしまっていた。
「でもその彼はきっと出水ちゃんに感謝してたんだよね。だからありがとうって笑ってくれたんだし」
「……でも、わたし結局はなにもできなかったから」
「そういうのってきっと誰でもあると思うよ。出水ちゃんだって言ったじゃない。自分がターゲットになるのを恐れてしまうのもわかるよ」
テーブルの上に置いてあったわたしの左手を向かいの席に座っている霜田さんがぎゅっと握った。
突然のことにびっくりして手を引きそうになり、慌てて堪える。
霜田さんは柔らかい笑みをわたしに向けて、その手をぽんぽんと二度タップした。
「君はなにも悪くない」
さあ、続きを食べなと手を解放され心がじんわりと暖かくなった。
まるで悠真に許されたような気持ちなって、自然に笑みがこぼれてしまっていた。
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会計時、お金を払おうとしたら霜田さんに断られた。
しつこく言うのも気が引けて、今日のところはごちそうさまですといいながら会計する霜田さんの姿を見ていたけどやっぱりかっこいいなと思った。
しかも会計、いつもと同じ値段。
今日まで安いって霜田さん言ってた割にそういう宣伝の貼り紙とかなかった気がする。
首を傾げていると、霜田さんがにこっと笑った。
「どうしても今日オムライスを食べたかったから。みんなには内緒」
口元に人差し指を当てていたずらっぽい笑みの霜田さんにドキッとしてしまった。
あれ、嘘だったんだ。