思いは記念日にのせて
家まで送ると言ってくれたけど、今日は酔っていないし大丈夫と固辞して店の前で別れた。
ここから家まで行ってまた戻らなきゃいけないんだもん。申し訳ないし。
家までのんびり歩き、エントランスに入って一階に設置されたポストの中身を確認する。
相変わらずダイレクトメールが多いなと思いながら不要のものを入れられるように置かれたゴミ箱にポイポイ捨てていく。
浴室の改装や畳の張り替えのチラシなんていらないんだよね。
ふと、ポストコーナーの横を通っていく人影に気づき、顔を上げると背の高いサングラスを掛けた男性だった。
襟足を隠すくらいの栗色の長めの髪がさらりと流れるのが見えてなぜかどきっとした。
――綺麗な男の人。
この時間にサングラスっていうのも変な感じだけど、ふっくらとしたつやつやの唇やすうっと筋の通っている小ぶりの鼻梁が一瞬にしてぱあっとわたしの視界に入ってきた。
なんとなく異国の人の感じがして驚きのあまり、持っていた郵便物を全部落としてしまった。
その音でわたしの気配に気づいたのか、その男の人は足を止めてこっちに顔を向ける。
「――る」
「あっ……」
視線があったであろうその刹那、女の人の声が聞こえてきた。