思いは記念日にのせて

「あ、すみません……」
「No problem.see you.Chiharu」
「え?」

 なんで名前を?
 と、思って顔を上げた時にはすでにそのふたりはエレベーターホールの方へ向かって歩き出していた。
 まるでパリコレのランウェイを歩いているかのように美しくしなやかなその姿を見て思わず吐息を漏らしてしまう。
 エレベーターの中に消えたふたりを見送ってから受け取った郵便物を見て気づいた。
 ここにわたしの名前が書かれていたからわかったんだ。
 だけどもしかしたら家族宛の郵便物だとは思わなかったのかな……わたしってチハル顔なのかなぁ?
 それに、この郵便すべて漢字で『千晴』と書かれているのによく読めたよね。
 
 不思議な気持ちでエレベーターホールに向かうと五階で止まっているのに気づく。
 あのふたりは五階で降りたんだ。
 うちのフロアにあんな素敵な外国人と知り合いの住人がいたのかしら? 
 なんとなく腑に落ちないけど。
 来たエレベーターに乗って五階に到着すると、さっきのふたりの姿は見あたらなかった。
 まあ、当然だよね。すでに家の中に入っているだろうし。
 横一列に並んだ家の扉のどこかの家にあのふたりがいると思うと、いつもよりわずかに背筋が伸びてしまう自分がいた。

 なにカッコつけちゃってるんだろう。
 そんな自分がおかしくて、つい小さな声で笑ってしまっていた。端から見たらさぞかし怪しい姿だろうな。
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