思いは記念日にのせて
 
 片山課長に連れてこられたのはパソコン部屋の隣にある三畳ほどのスペースの小部屋。
 長いテーブルひとつにパイプ椅子が四つ置かれていてそこに向かい合わせに座った。持っていた手提げ袋から缶コーヒーが二個出てきてひとつ前に置かれる。
 にいっと笑みを浮かべた片山課長がテーブルに肘をついて手を組み、そこに顎を乗せた。

「君にやってもらう仕事はうちの課でもっとも大事なところです」
「えっ」

 新人にそんなところ任せちゃって、いいの?
 それにしてはその緩い感じの態度……本当なのかしら。

「出水さんには社内報の『今日は何の日?』のコーナーを担当してもらいます」
「……は?」
「待ってました、その反応!」

 意味わかんないし。
 なんでこんなにうれしそうなのかもわからない。
 なんとなく胡散臭い……これから苦楽を共にするであろう直属の上司なのに。

「このコーナーは本当に出版社にも書店にも人気があって毎月楽しみにしていると言われているんですよ。毎日何かの記念日があるのは知っている?」

 急に敬語が崩れて饒舌になる片山課長にやや引き気味でうなずく。
 たぶんわたしの顔はひきつっているだろうな。

「みどりの日とか、憲法記念日とか……です?」
「うん、その辺をチョイスするのがいいね。もうすぐゴールデンウィークだもんね。その気持ちわかるわかる。でもね、ここでいう記念日はもう少しマイナーな感じの、祝日とか関係なくみんなに聞いても『え、そんな日あるの?』と首を傾げられるような記念日を対象にしているんだよ。あ、もちろんバレンタインデーやホワイトデーとかも対象だけどね」

 片山課長が缶コーヒーを開け、ぐびぐびと飲み始める。
 どうぞと促されるけど手が伸びなかった。
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