思いは記念日にのせて

「その日にちなんだエピソードや思い出を社員だけでなく書店さんや出版社さんから聞き出してまとめてもらうっていう仕事。それを一ヶ月分まとめて社内報に載せるのね。つまり君の国語力、文章力が試される仕事ってわけ。どうだい、やりがいがあるだろう?」
「……」

 言葉を失っていた。
 全然本に携わる仕事じゃない。

「ちなみにこれが五月号。こんな感じで二ページどどんと君の好きなように使っていいんだ。どうだい、魅力的な仕事だろう?」
「……」

 そう言われましても。
 こんなに薄い社内報で二ページを独占して使えるのは大変名誉なことなのかもしれない。けど。
 入社式の時、社内報を新人ひとり一冊配布されていた。
 それに目を通したけど、こんなページがあることすら気づかなかった。つまりわたしには全く興味を引かないページだったということだ。

「今月号は新人の自己紹介ページもあるからね。これはまだ配布されていないからおおっぴらにはできないんだけどほら、ここに出水さんも」
「ひゃっ! 開かないで結構です」
「なかなかかわいく撮れてるじゃない、写真うつりいいねえ」

 新入社員の自己紹介ページには全員の顔写真と配属された部署、出身校と一言が載せられている。
 入社式の日すぐに撮られた写真だ。なんて眠そうな顔をしているのだろうか……いや、今そんなことはいい。だけどこれが書店や出版社へ配布されると思うと恥ずかしていても立ってもいられない。
 しかも写真うつりがいいとは褒め言葉なのかそれともと勘ぐりたくなる。普通に考えれば実物よりよく写っているということでしょう?

 うまくやっていけるのかさらに不安になってきた。
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