思いは記念日にのせて
「悠真、どうしたの?」
「ん、千晴がいたから」
その男の人は少しだけ振り返って中にいる人に語りかけた。
今、悠真のお母さん……『悠真』って言ったよね。
それに反応したのが目の前の長身の男性で――
「悠真⁉」
失礼とか酔った頭では考えられず、気づいた時には思いきり指を差してしまっていた。
「ひさしぶり、千晴」
ニカッと笑みを浮かべた目の前の悠真らしき人が小さく手を振る。
これがあのぽっちゃり悠真?
信じられないっ。嘘だ! 嘘だ!
いくら時間がたってるとはいえ、こんなに大きくかっこよく成長しちゃうものっ?
「会いたかったよ」
大きく手を広げた悠真がこっちに向かって近づいてくる。
ちょ、ちょっと待って!
言葉にならず一歩後ずさろうとしたけどそんなの時すでに遅くてがばっとその胸に抱きしめられていた。
この前感じたフレグランスの香りがふわりとして、急に身体から力が抜けてゆく。
「あれ?」
頭の上で悠真の声が聞こえるけど、闇に吸い込まれるようにわたしはゆっくりと意識を手放していたのだった。