思いは記念日にのせて
ベッドから立ち上がって部屋を出ようとすると、扉の横の本棚の前にイーゼルがあるのに気づいて足を止める。
カンバスもセットされているようだけど、白い布が被せられていて何が描かれているのかはわからない。
これって、普通に考えたら絵だよね。
ダメだと制止する気持ちはなぜか微塵もわかなかった。
するっとその布を引っ張ると、スクランブル交差点を上から描いたような絵が出てくる。
まだ下書きのようなんだけど、白いカンバスの上に描かれたたくさんの黒い人だかりがまるで本当に動いているかのように見えた。
そしてそのモノクロの世界の中に一本の赤い線が引かれている。
交差点の斜め端と端、つまり一番離れた状態にいる男女の手から緩やかに伸びる赤い線。
互いの隣には連れがいるのに、繋がっているのは一番離れている男と女。
ずぐん、と胸の奥が疼く。
これは、赤い糸?
手を伸ばしてその赤い線をなぞろうとした時、部屋の扉が開いた。
「あ、起きた?」
リビングの方からの光が一気に暗い部屋に差し込まれ、逆光だったけどそこに立っているのが悠真だということはすぐにわかった。