思いは記念日にのせて

「は?」
「悠真、千晴起きたノ?」

 いかにも外国人が日本語しゃべっていますよといった感じのイントネーションの声。
 悠真の後ろからひょこっとこっちを覗き込んだのはこの前あったモデルのような金髪の女性。
 今日はサングラスをしてないからその顔を拝むことができた。
 透き通るようなブルーアイは大きくて金色のまつげがくるんと上を向いている。なんて美しい人なんだろうか。

「ハイ千晴。ワタシはアメリー。よろしくネ」

 片言だけど日本語は難しいと言われているからここまで話せるのはすごいことだと思う。
 手を差し出されておずおずと伸ばすとぎゅっと握られた。
 うわ、美人がわたしの前に立ってる。しかもわたしの手を握って最高の笑みを見せてくれている。
 てか、悠真とアメリーってどういう関係なんだろう?

「日本のコト、いろいろ教えてほしいナ」

 ふわふわの金髪がきれい。
 つい見入ってしまって、何を言われているんだかもよくわからずにコクコクうなずいてしまっていた。

「ってことで、いろいろ教えてやってくれ。頼むな千晴」
「……はあ」
「今から引っ越しそば作るけど、千晴ちゃんも食べてかない?」
「いえっ、結構です。もうおいとましますからっ」

 ここ何年も聞いてない悠真のお母さんの少し高いトーンの弾んだ声が遠くから聞こえてすぐに断ってしまった。
 この前薬局で会った時あんな素っ気ない態度とられたのに。
 なんだか顔を合わせづらくって逃げるように悠真の家を後にしていた。

「またな千晴。今度飲みに行こう」

 扉が閉まる寸前にそう聞こえて振り返った瞬間、笑顔で軽く手を振る悠真の姿が少しだけ見えた。
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