思いは記念日にのせて
 
 霜田さんからだ。
 メールを開こうとした瞬間、電話が鳴りだした。
 しかも霜田さんからの電話。
 ひさしぶりに話ができることがうれしくて、すぐに出てしまった、
 こういう時は少しじらしたほうがいいのかもしれないけど、そんな駆け引きわたしにはできない。
 
「はい」
『出水ちゃん、いきなりごめんね。今日これからご飯食べに行かない?』

 これから?
 時計を見ると時間は二十時を回っていた。 

「すみません、今食べちゃって」
『あっ、そっかー……そうだよね。いきなりすぎたか。今まで仕事でさ』
「えっ、休日出勤だったんです?」
『そうなんだよ。急にそういうことになっちゃってさ。今から帰っても二十一時回っちゃうし飯どころじゃないか……じゃあ九日はどう? 土曜日だけど』
 
 五月九日、告白の日。
 ちょっと前まで今月の社内報を見ていたから明確に記憶していた。
 けど、そんなの関係ないよね。たまたま誘われた日がその日なだけ。何意識しちゃってんの。

「はい、大丈夫です」
『よかった。その日は確実に休みだから映画でも行かない?』
 
 まさかのデートのお誘い?
 違う違う、たまたまだっていうの。
 第一、その日が告白の日だなんて知ってるとは限らないじゃない。
 社内報を見ていれば知ってるかもしれないけど、忙しい霜田さんが見ているとは考え難いな。

『出水ちゃん?』
「あっ、はっ、はい、大丈夫です!」
『よかった。観たい映画があったんだ』

 観たい映画の説明とその日の待ち合わせの時間や場所を決めて電話が切れた。
 なんだか心が躍るようなわくわく感が波のように一気に押し寄せてきた。
 映画なんてひさしぶり。しかも男の人と行くのは初めて。

 まともに男性とおつきあいしたことのないわたしが映画に誘われるなんて……しかもあの霜田さんに。
 どうしようどうしようどうしよーう!
 天にも昇る気持ちってこういうことをいうんだろう。

 やっぱり人生悪いことばかりじゃないよねっ。
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