思いは記念日にのせて
にこっと微笑む受付嬢。
わたしが早く帰らないと終業時間が来ても帰れないのかもしれない。
カウンターから出てきて近づいてくるその姿はモデルさん張りにスタイルがよかった。背も高い!
思わず見上げてしまった時、右に人の気配を感じた。
「あれ、それ俺の傘?」
聞き覚えのある声に恐る恐る右を向くと……うわああああ! 出た! シモダさん!?
一瞬目を丸くした後、わたしを見てにこっと微笑んだ。なんだこの悩殺スマイルはっ。
しかも今日はネイビーのスーツに紺とホワイトのストライプのネクタイがいかにも完成されたビジネスマンって感じでイケメン度アップ!
「君。この前の学生さんだね。わざわざ持ってきてくれたの?」
「あっ、はい! あの時は本当にありがとうございました!」
腰をぐっと折り曲げて頭を下げるとポキッといい音が鳴ってしまった。
運動不足が祟ったかも。うん、シモダさんには聞こえてない……よね?
「ぷっ」
どうやら願い空しく頭上で吹き出し笑いが聞こえた。大失態。
恥ずかしくて頭があげられない。せめて髪をおろしていれば顔が隠せたかもしれないのに、なんで面接よろしく後ろに一本結びしちゃったんだろうか。
「本当にありがとうね。少し時間取れるかな?」
頭をあげると目の前に小さなカードが差し出されていた。
思わずそれを手に取ってしまう。シモダさんの笑みがまぶしい。
「そこでこれ出せばタダで飲める。すぐ戻るから待っててほしい」
エレベーターホールの横にあるカフェラウンジを指さされた。
コーヒーショップが社内にあるってすごいよね。会社説明会の帰りがてら飲んでいこうと思ったけど、買ってるのがどう見ても社員さんばかりだから気が引けてそのまま帰ったのを思い出す。
シモダさんは受付カウンターの中にある内線で電話をしながら笑顔でわたしに手を振ってくれる。
その後ろにすごい形相でこっちを睨むように見ている受付嬢の姿。
うっ、怖い。
長居は無用だと言わんばかりにその場をそそくさと立ち去ることに決めた。
もしかしてあの受付嬢はシモダさん狙いなのかもしれないな。
だからわたしが早々に立ち去るように傘を預かるって言ったのかもしれない。恐ろしくて振り返れず、一直線にカフェラウンジの方へ向かった。