思いは記念日にのせて
第十五話
貴文さんに告白されてつきあうようになってから、仕事も俄然もやる気が出てきた。
我ながら現金だと思うけど、こんなにも恋人の存在がわたしを支えてくれているとは思わなかった。
もちろんリーダーの時もわたしをずっと支えていてくれていたけど、やっぱり今までとは違う。
仕事で海外事業部に行くだけでもなんだか胸が躍ってしまう。
どうせだったら貴文さんに用があって来たかったんだけど、今日取材させてもらうのは別の社員だ。
粗相のないようにと気合と緊張が入り混じる。
海外事業部のオフィスに入る前に小さく深呼吸を繰り返し、落ち着かせて一歩踏み出した。
「失礼します」
大きな声になり過ぎないよう注意し、中に入った途端ついきょろきょろと見回してしまう。
「あの、何か?」
海外事業部に入ってすぐの席の女性社員に声をかけられた。
怪訝な顔で睨まれている……うぅ、見回すのはまずかったかな。挙動不審過ぎた?
「広報部から参りました出水千晴と申します」
「ああ、会議室で待っているようにとのことです」
それだけ言うとその女性社員はふいっと目の前のパソコンに視線を戻した。
銀縁の眼鏡が真面目そうな印象なのに、髪は結構茶色く染めているその人の名札には『野島』と書かれていた。
きりっとした美人なんだけど冷たそうな雰囲気。もしかして人付き合いが苦手なタイプなのかも。