思いは記念日にのせて
「すみません、会議室ってどこに……」
「え?」
ぎっと鋭く睨みあげられる。
うわっ、すごい迫力。そんな怖い顔しなくてもいいのに。
「ちは、出水さん」
「たか……霜田さん!」
お互いに名前を呼びそうになって慌てて言い直してしまう。
ああ、やっぱり普段から名字呼びに慣れておいたほうがいいのかも。
下の名前で呼んでいいって言われてから名字で呼ばなくなってしまって逆の癖がついちゃってる。
しまったといった顔で照れくさそうに上目遣いでこっちを見る貴文さん。
わたしもきっと同じような表情をしているに違いない。
だけど貴文さんはすぐに真顔に戻って、野島さんの方を向いた。
「野島、忙しいのかもしれないけど、他部署の人なんだし案内くらいしてもいいんじゃないかな」
「……すみません」
「今日は俺が案内するから次は頼むな。どうぞ、会議室はこちらです」
ぼろが出ないうちに、と小声で耳打ちされて笑いそうになってしまう。
わたしもずっとここにいるのは気まずいのでそそくさと貴文さんに近づいてオフィスを後にした。
「あいつ悪い奴じゃないんだけど、ちょっと人見知りなんだ。悪く思わないでやって」
「はい、大丈夫です」
貴文さんがフォローしてくれたから、と小声で付け足すとうれしそうに笑ってくれた。
社内に恋人がいるってだけでなんだか仕事に来るのが楽しみになってしまうから不思議だ。
これも愛のパワーなのかもしれないな。