思いは記念日にのせて
化粧をすませ、口紅をさせば終わりってところで携帯が鳴った。
画面を見ると貴文さんから。
もしかしたら会社を出たって連絡かな。予定より早いかも。
ワクワクする気持ちをひた隠しにして電話に出た、が。
『千晴、ごめん』
通話になったと同時に謝る貴文さん。
なんだか嫌な予感しかしない。
『九州支店の同期が数人こっちに来ていて、急遽飲みに行くことになってしまって』
「えっ……」
『ごめんな。あんなに楽しみにしてたのに』
いつもより若干早口な貴文さんが申し訳なさそうに携帯の向こうで頭を下げる姿を想像したら何も言えなくなった。
それに離れた支店から同期がくるなんて滅多にないことだし。
頭ではわかっているんだけど気持ちがついていかない、というか置いてけぼりの心境。
『また今度埋め合わせするから』
「あっ、あのっ。終わってから少しだけでも会えませんか? わたし、貴文さんの家の方まで行くから」
『……ごめん、何時に終わるかわからないし約束はできない。それに夜遅くひとりで外を歩くなんて危ないだろう』
少し怒ったような口調でばっさりと断られた挙げ句、すぐに電話を切られてしまった。