思いは記念日にのせて

 西園寺さんが貴文さんと同期なのは知っていたし、これから九州支店のみんなが集まる場所へふたりで向かっているのかもしれない。
 そう思ったけど、どくんどくんと自然に心音が速まっていく。
 なんとなく西園寺さんが貴文さんに寄り添っているようにも見えて。
 しかも女性にしては背の高い西園寺さんと貴文さんはちょうどバランスがとれていて誰が見てもお似合いだと思う。

 声をかけてみようか。
 少しだけでも会いたかったって言えば。
 
 ――やっぱり無理。

 勢いだけでここまで来ちゃったけど、そんなことできるはずがない。
 第一貴文さんはわたしとつきあっていることを誰にも言っていないかもしれない。
 わたしだってまだ誰にも言ってないもの。
 研修グループでの飲み会の機会ができたらメンバーだけには言うつもりだったくらいだし。
 それにここでいきなり目の前に出て行ったら完全に引かれてしまうような気がする。
 そんなに束縛しないでほしいって思われるかも。
 
 距離感をどう保っていいのかわからなかった。
 彼女だからって何をしていいわけでもない。だけど会いたい気持ちを我慢しているのも違う気がする。

 でも今、少なくてもこのタイミングは違うだろう。

 ふたりが人混みの中に紛れてわたしの視界から消えるまではほんの一瞬だった。 
< 67 / 213 >

この作品をシェア

pagetop