思いは記念日にのせて
 
 それだけじゃない、悠真の食べっぷりに言葉を失う。
 唐揚げがあっという間に胃袋に消えてゆく。それだけじゃない、揚げ出し豆腐もライスコロッケも。
 とりあえず一口、とわたしの取り皿においていってくれるのは優しさなんだろうけど、そんなに食べて気持ち悪くならないのかな。しかも脂っこいし太るんじゃ。

「平気平気。ジム通ってるし」
「……ゆ、柘植くんって仕事は?」

 柘植悠真、それが彼のフルネーム。
 悠真と呼びそうになってあわてて言い直した。
 子供の頃から本人の前では呼び捨てにしたことなかったし、いきなり不自然だし。
 向こうはわたしを呼び捨てにしてるけど……昔はなんて呼ばれてたっけな。少なくとも呼び捨てじゃなかったような。

「悠真でいい。仕事は自営業みたいなもん。だから結構時間あるんだ」
 
 箸の動きが機敏すぎてつい見入ってしまう。
 自営業ってなんだろうか。しかもあの美人アメリーがビジネスパートナーだって言うし。
 しかしきれいに食べるなあ。ホッケの身がきれいになくなってゆく。
 アメリカ帰りだけど日本人であることには変わりないし、日本にもいたわけだから当たり前なのかな。でもずっと日本にいるわたしより上手に魚の骨を取るのはちょっと悔しい。
 
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