思いは記念日にのせて
「なんで急に、帰ってきたの?」
「迷惑だった?」
「そっ、そうじゃないけど……」
上目遣いでじろりと睨まれぐっと息を呑む。
昔のかわいらしい印象はまったくなくなっているけど、その分大人っぽさが増して美しくなった。
男の人に美しいっていう形容は変なのかもしれないけど。
悠真は食べる手と口を休ませることなくわたしの質問に答えてくれた。
両親の離婚で父親と共に渡米した悠真は英語を話せず苦労したけど、すぐに覚えて日常会話くらいはスムーズにできるようになったそうだ。
元々勉強はできたしな、と過去のことを思い返して胸の辺りがずぐんと重くなる。
そんなわたしの心境なんてお構いなしに悠真は悠然と話し続けた。
「向こうで仕事してたんだけど、親父が急に死んでさ」
「えっ?」
「心筋梗塞ってやつ。毎日忙しく飛び回って食生活も乱れまくってたし、いつかは倒れると思ってたけどこんなに早いと思わなかった」
悠真が焼き鳥の串をタクトのように軽く振りながら笑う。
なんで笑ってるのだろうか。
無理しているようには見えない。本当に普通に笑っているように見える。
だけど普通に笑っているからって心では笑っていないことだってあるはずだ。
昔の悠真のように。
きっと、最後わたしに『ありがとう』と言った時だって心の中は違ったはずだ。