思いは記念日にのせて
「おふくろがひとりでいるってことも知ってたし、幸いどこでもできる仕事だからこっち帰ってくるのもありだなあって……まあ、思いつき?」
楽しげに笑っているけど、それが悠真の防衛心の現れのような気がしてそこから抜け出せない。
なんだかこっちが悲しいし、見ていて痛々しい。
「それよりなんで泣いてた?」
「え?」
「さっきの帰り道、泣いてたろ?」
「……泣いてないよ」
急に話を変えられて、一瞬なんのことかわからなかった。
だって泣いていたつもりはない。涙は流れていなかったはず。
それってもしかしてわたしが悠真に対して感じたように、涙を流していないのにわたしが心の中で泣いていると思った?
「なにがあった」
「……」
「言いたくないならいいけど」
ビールをぐいっと呷った悠真が新たに注文をする。
わたしもなんとなくつられてウーロンハイを飲み尽くし、次はカシスオレンジを注文していた。