思いは記念日にのせて
なんとなく名残惜しいような気持ちになって目を開くと、勝ち誇ったような色っぽい表情で悠真がわたしを見つめていた。
「キスならこのくらいしてもらわないと」
「……っ」
泣きそうになりながら抗議の視線を向けるとニコッと悠真の表情が綻んだ。
一瞬にして甘い空気から解放された感じになる。
その方が都合がよかった。このまま甘い雰囲気に流されて……なんてことありえないだろうけど!
だってこれはただの挨拶のキスなんだから。
「いい練習になっただろう。感謝しろよ」
ぐしゃぐしゃと髪をかき乱され、力の抜けたわたしはしばらくぼうっとしてしまっていた。
「鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔しやがって」
大笑いする悠真を見てつられてわたしも笑っていた。
そうだ、酔っているからお互いまともな思考じゃなかったんだ。
その後またふたりで飲み直し、高さの合わない肩を組んで帰ってきた。
どっちも足下はふらふらでお互いの身体で支え合うようにして。
まるで千鳥足で手みやげぶら下げて歩く酔っぱらいオヤジ並だよ、これじゃ。
本当に楽しくて、昔のわだかまりとか吹っ飛んでしまうくらい悠真と打ち解けることができた。
帰ったらアメリーに『飲み過ぎ』と呆れられてしまったけど。
しかし、その時は全く気づいていなかった。
この時のことが後々大きな波紋を描いていくことを……。