思いは記念日にのせて

「あれ?」

 アンケート用紙と明らかに別の材質の紙が入っている。
 別にアンケート用紙を使用しないでも構わないんだけど、そういうことが今までなかったから。
 それを手にして開いてみると。

  【霜田貴文と別れろ】

 殴り書きの文字でそう記されていた。

「なに、これ」

 つい独り言を漏らしてしまう。
 こんなのおかしい。
 だってわたしと貴文さんがつきあっていることはまだ誰にも話していない。
 研修メンバーにさえ今度の飲み会の時に貴文さんと一緒に言おうと黙っていたのに。
 しかもこれを入れた人はわたしがこのコーナーの担当だってことも知っている。
 そうじゃなかったらこんなところに入れたりしないもの。

 テーブルにおいている手がカタカタと音を立てて震えていた。
 右手に左手を重ねるようにしてそれを抑え込むけど、指先の震えは収まらなかった。

「出水さん、ちょっと営業部行ってくるから電話番頼むね」
「はっ、はいっ!」

 ドンドンと扉をノックされ、思わずその脅しめいた紙を制服のポケットにつっこんでしまっていた。

 こんなの他の誰にも見られてはいけない。
 でもいったい誰が、という目星は全くつかなくて困惑のため息をつくしかなかった。
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