思いは記念日にのせて
 
 そして六月十二日、恋人の日。

 初めて貴文さんのマンションにお呼ばれした日。
 この日ばかりは貴文さんも残業をしないよう調整をしてくれた。
 
 運良く今日は金曜日。
 念のためお泊りセットは二、三日分持ってきてと言われていたので結構大荷物になってしまった。
 バッグを見られて何日分持ってきたのと笑われたのはご愛嬌ということで、一緒に買い物をして貴文さんのマンションへ向かった。

「千晴の手料理楽しみだな」
「手料理って、貴文さんのリクエストはパスタだし」
「いきなりハードルあげない方が親切かと思ったの」
「ひっどい、和食だって作れますよ?」

 ひさしぶりに楽しく会話しながら貴文さんのマンションに入る。
 単身用の作りだからそんなに大きくはないけどしっかりと片づけもされていて中はきれい。わたしよりちゃんとしてるかも。キッチン周囲もきれいだし、調味料も鍋もしっかり揃っている。

「じゃ、作るので貴文さんは好きに――」

 シンクの前で腕まくりをしながら後ろに立っている貴文さんのほうを振り返ろうとした時、いきなり後ろから抱き寄せられた。
 驚く間もなく顔だけ後ろを向かされ、熱い唇が重ねられる。
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