思いは記念日にのせて

「シャワー、いいですか?」
「うん、ごめんね。風呂沸いてなくて」
「一緒に帰ってきたんだから当然です」

 恥ずかしくて貴文さんの目が見れない。
 優しく頭を撫でられてからそっと背中を押され、浴室に誘導される。
 タオルを出してもらい、ごゆっくりと言い残して貴文さんはすぐに扉を閉めてくれた。

 胸の高鳴りを抑えるようにしばらくそのバスタオルを抱きしめて突っ立っていた。
 洗面台の前にある鏡に自分の間抜けな姿が写っている。

「ふぅ」

 小さくため息をついて心を落ち着けようと試みる。
 今日の日のために新しくした下着をお泊まりセットの中から取り出して洋服を着たままの自分の身体に合わせてみた。
 淡いピンクのセットにしたんだけど子供っぽかったかな。
 デザイン的には大人の雰囲気醸し出しているんだけど、貴文さんは黒とか赤とか情熱的なものの方が好きだったかな。そんなの持ってないんだけど貴文さんの趣味なら買う覚悟はある。

「よし」

 ようやく決心がついて、洋服に手をかける。
 ブラウスのボタンをはずす手が小刻みに震えて、まるでアル中の人みたいだ。
 うまくはずせない……こんなところで時間かけたくないのに。

 自身を落ち着かせるために生唾をごくりと飲み込んで、鏡に向かって大きくうなずいてみた。

 ――大丈夫、大丈夫、だいじょ……あれ?

 なんとなく重い下腹部。
 そして身体の中心からどろりとしたものが流れ出すような不快な感覚。

 ……もしかして。
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