思いは記念日にのせて
「え? 出張?」
ひさしぶりに貴文さんと夢幻亭のオムライスを食べに来られたと思って喜んでいたのもつかの間、いきなりそう告げられた。
その顔には疲労の色がくっきりと浮かんでいる。
目の下は長いこと隈が張っていてなかなか取れないようだけど、食事だけは抜かないようにしていると聞かされて安心した。
「直接交渉に行くことになるかもしれなくて、とりあえずは支社の方で戦略を練ることになるとは思うけど結構長くなりそうなんだ」
とりあえず一ヶ月の予定だと言うけど、事の進み具合によっては延長される可能性もあるって。
なんだか全く疲れのとれないまま出張に行くことになってしまいそうで貴文さんの身体が心配だった。
本当は無理しないでほしいけど、疲れた顔をしながらもイキイキと仕事の話をするから口を挟むことなんてできないよね。
「――ごめん、はい」
全く気づかなかったけど、貴文さんの携帯が鳴っていたみたい。
周りを気遣うように小声で話し始めた。
片時も携帯を手放すことができなさそうな状況で可哀想になってしまう。
なにもしてあげることができず、目の前でオムライスを食べながら貴文さんの顔を見ていてもなんとなくおいしく感じなかった。
トラブルが発生したのか貴文さんの表情が険しくなって、潜めた声なんだけど少し語尾が強くなっている。
もちろん話の内容までは聞いてはいないけど。