思いは記念日にのせて
「千晴、ごめん。ちょっと社に戻らなきゃいけなくなった」
「えっ……」
「本当に申し訳ない。最近全然時間も取れないし」
そんなのいいのに。
会えないのは寂しいけど、少しでも休んでもらった方が安心する。
そう伝えると貴文さんは少しだけ悲しそうな表情で苦笑いをしていた。
「ありがとう。優しいな」
急いでオムライスをかき込んで、貴文さんが店を飛び出して行く。
お皿の上に無造作に置かれたスプーンが貴文さんの余裕のなさを表しているようでなんだか切ない。
帰ろうと席を立とうとした時、わたしの携帯が震えた。
貴文さんからメール。
『千晴に触れたい』
そう一言だけ。
だけどうれしくて、携帯を握りしめたまま笑ってしまう。
すぐに『同じ気持ちです』と返したけど、そのメールにはすぐに既読マークがつかなかった。
きっと移動中なんだろうな。
お疲れさまですという気持ちを込めて、今まで貴文さんがいたすでに冷えてしまっている席に向かって軽く頭を下げていた。