思いは記念日にのせて

「一緒に食わない?」
「無理」
「なんでだよーどうせ暇だろ?」

 暇でも一緒は無理なんだってば。
 ちょっと顔をしかめて首を振ってみせると、なにかを察してくれたのか悠真の歩くペースがゆっくりになった。
 
「あとでうち来て」

 そう聞こえた気がして振り返ると、ニッと笑った悠真が左手の小指を立て、軽く揺らす。

 ――や・く・そ・く

 悠真の唇がそう動いたように見えた。
 その仕草にどきっとしてつい見とれてしまっている自分に気づいた時にはすでに悠真は目の前にあった書店の中に消えていた。

 なんなの? あの色気たっぷりな笑顔。
 それにあんな仕草いきなりしてみせるなんて、不意打ちすぎてびっくりしたわ。
 悪態をつきながら心の中で首を傾げつつ帰路についた。

 約束と言われて守らないわけにいかない。
 悠真の携帯の番号も知らないしもちろんメールアドレスも。

 断るすべもなく家に帰った後、シャワーを軽く浴びて悠真の家のインターフォンを押した。

「ハーイ、千晴!」

 中から出てきたのはアメリーで、白のTシャツにホットパンツ姿。
 長くて美しい足がこれでもかってくらい露出されていて目が飛び出そうになったわ。
 しかも着ているTシャツには筆文字で『焼肉定食』って書かれている。
 このセンスの悪さはどうなっちゃってるんだろうか。なんでこのTシャツをチョイスするの?

「どうぞあがってヨー」

 招き入れつつアメリーがこっちに背を向けた時、目に入ったのは『大盛!』の文字。
 大笑いしそうになるのを必死で堪えた。

「どうしたの? 千晴?」
「そのTシャツの意味わかってる?」
「うん。弱いものは強いものに食べられるつまり自然の摂理ってことでショ?」

 ……それ、弱肉強食?
 もちろん知ってますよ的なアメリーのどや顔に笑いが堪えきれなくなって噴き出してしまっていた。
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