強引上司の恋の手ほどき
「はぁ……疲れた」

一日中パソコンとにらめっこしていたせいか、今日は特に肩がこった。

コキコキいわせながら歩いていると、名前を呼ばれて止められた。

「菅原さん」

「あ、中村さん。お疲れ様です」

私の名前ちゃんと覚えてくれたんだ。転勤してすぐだから、人の名前と顔を一致させるのが大変なはずなのに。

「あの書類大丈夫でしたか?」

「はい。さっき帰る前に決済に回しましたから。早ければ来週の経費精算の時に振込できると思います」

「それを聞いて安心しました。呼び止めてごめんね」

「いえいえ、気にしないでください」

 丁寧な態度に恐縮してしまう。

「あなたに頼んで良かったです。では失礼します」

「お疲れ様でした」

挨拶を交わしてロッカーへと向かう。

中村くんって本当に、よく気がつく人なんだ。

仕事だって言っても、こんな風に感謝されるとやっぱり嬉しい。疲れていた体が少しだけ元気になった気がした。



それからも何度か中村くんに社内で声をかけられるようになった。

社食で会ったときに隣でご飯を食べて、同期だということを知り……出張のお土産が机に届くようになり……メールや電話でプライベートな話をするようになっていた。

そして彼が転勤してきて一年経つころ、告白されて付き合うようになっていたのだ。
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