強引上司の恋の手ほどき
「そんなに、強く噛むな。血がでるぞ」

課長の長い指が、私のくいしばっていた唇に優しく触れた。

驚いてビクッと体を揺らすと、それを見た課長はおかしそうに肩を揺らした。

「警戒しすぎ。ほら、加藤の餌食になってこい」

「はい」

最後にちらりと視界に入った中村くんは、私たちを鋭い視線で睨みつけていた。

はぁ……課長も、いくら中村くんが誤解してるからってちょっとやり過ぎ。

こんなこと私の心臓がもたない。

「ふぅ」

小さくため息をついて、隣の車両へと移動した。

加藤さんは……っと。あ、あそこだ。

私は加藤さんを見つけると、隣に座った。

「加藤さん?」

そっと隣を覗きこむと、スースーと寝息を立てている。

え? だって課長はさっきずっと話しかけられて困ってるって言ってたのに。

もしかして、今の短い間に寝ちゃったんだろうか?

一瞬そう考えたが違う。

きっと課長は中村くんと私の車両を違えるために、そんなことを言ったんだ。

まさか、そんなことまで気にしてくれるなんて。

こんなことされて、好きにならないなんて無理がある。
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