強引上司の恋の手ほどき



社員旅行が終わった後から、経理課はびっくりするほど忙しくなった。

監査に備えての準備が急ピッチで行っているからだ。

普段は奥様業が忙しく定時で上がることの多い美月さんも、連日残業して仕事をこなしていた。

「菅原〜、この間の件税理士のセンセなんて言ってた〜?」

課長がパソコンの画面を見たまま、私に問いかけきた。

「先ほど、メールがありました。すぐに転送します」

「了解。それと銀行からの残高確認書だけど……」

「そっちに関しては、手配済みです」

「さすが……俺の出る幕ないな」

画面から顔を上げてニヤニヤこっちを見ている。

「もう、からかわないで下さい」

私は軽く睨んでみるけれど、課長はそんなのどこ吹く風だった。

冗談めかしてだけど……褒められるのはやっぱり嬉しい。

課長への気持ちに気づいてから、仕事が楽しくて仕方がない。我ながら単純だとは思うけれど、気持ちの持ち方次第でこんなふうになるなんて、この歳まで知らなかった。

仕事だけじゃない、苦手だった料理だって積極的に取り組んで料理教室でもずいぶん褒められるようになった。
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