強引上司の恋の手ほどき
第二章 恋のたまご焼き
《第二章 恋のたまご焼き》
中村くん……いないなぁ。
昼休み。私はキョロキョロと営業課のあるフロアを見渡してみる。
堂々と入っていけばいいのかもしれないけれど、私用なのでなかなか勇気がいる。手元には早起きして作ったお弁当があった。
以前チラシを貰った料理教室に一念発起して入会した。そのことを中村くんに話をしたら「お弁当が食べたい」と言われたので、私は張り切って、教室で習った料理をお弁当にアレンジして持ってきていた。
前の晩仕事で遅くなったので深夜まで営業しているスーパーまで、自転車で材料を買いに行った。寝る前にはレシピを何度も見てイメージトレーニングをしてから眠りについた。
今日の朝は、二時間も早く起きて手順通りに料理をして、なんとか“お弁当”と呼べる程度のものは作れたと思う。
「あれ、千波?」
ちょうどフロアから出てきた中村くんの姿を見てホッとする。
「あの、これお弁当なんだけど、よかったら一緒に……」
「ごめんっ!」
私の言葉を遮るように、両手を顔の前で合わせて謝られた。