浸透
「どうなってんだよ。あんた医者だろ、何とかしてくれよ」
医者に詰め寄った。

「今から紹介状を書くから、そこで診てもらってくれ」

「診てもらえば治るんだよな」

「分からんが、何らかの処置は施してくれるだろう」
医者は大量の汗を溢しなから言った。
よそよそしい態度に焦りが震えになって現れた。

「それでも医者かよ。助かるのか助からないのか、はっきり教えてくれよ」
肩を強く揺すった。
一言でも安心出来る言葉を、医者の口から出そうと必死だった。

目をそらし、顔をそむけ、肩を掴んでいる俺の手を払い除けようとしている姿は、医者とは程遠い非力な老人そのものだった。

安心を得ようと来た病院で、突き放される事がどれだけ不安か。
危機感が吹き出してくる。

不安が込みあげてくる。

嫌だ
生きたい

不安しか目に映らないまま、必死にすがっていた俺の手は、知らない間に位置を変え、医者の首を締めていた。
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