浸透
それは自分の制御を離れた右手の暴走だった。

「違う、違うんだ。俺じゃない、手が勝手に動いてるんだ」
医者は俺の腕を叩き、顔叩き、必死の抵抗をした。
俺自身もその攻撃を受けながら、首に食い込んでいく右手を離そうと必死だった。

だが何かの意思を持った右手は、この医者の命を奪おうと必死だった。

抵抗は空しく、一分ほどで医者は舌をだらしなく出し、白眼を向いて、動かなくなった。
俺は震えながら、涙を流していた。

絶命を確認したように、右手が首から離れた。

数分前まで医者であったその死体は、蒼白の顔面を地面に叩きつけて倒れた。

肩で息をしながら、動かない医者を見下ろしていた。

人を殺した
俺が?

俺はとっさに荒れた机の上にあったカッターを取り、刃を出した。
それを手首に押し当てる。

目をつむり、力を入れようとした。

だのに切れない
痛みを恐れている。
俺はどうなってしまったんだ。
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