動き出した、君の夏
『何?』
「…あ…あれ…」

瑞希が、静かに腕を上げた
瑞希の人差し指は、野球用の緑のネットで囲われたグラウンドに向いていた

『…え…』

グランドの、ピッチャーの立つ位置
そこに、あたし達に背中を向けて座り込んでいる人が居た




『…夕…!!』

思わず走り出して、ネットに指を絡ませた

確かに夕だ
左手に、包帯が巻いてある
その手首を、振るえながら右手で掴んでる


肩を小刻みに震わせていた





「…ッんで…投げれねぇんだよ……」

綺麗な夕焼けの中、背中を向けた夕の瞳から




オレンジに輝く涙が一滴


ぽと


さらさらの土に落ちた

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