動き出した、君の夏
「……な、にが?…」
『あたし…今日…』

昼休み、あたしと瑞希は、夕の気持ちも知らないで怒鳴りつけた
何で言い返さないんだ
悔しくないのか。って
夕が悔しくないわけないのに

『…夕が…悔しいのに堪えてたら…あたしが…悔しくないのか…なんて言っちゃって…』
「………」
『夕だって…悔しいはずなのに……』

ざっ

夕が、ゆっくり立ち上がった
そして、ゆっくりゆっくり、あたしに近づいてきた

『…何も分かってないあたしが…ッ…』

何でだろ
あたしまで涙が零れ落ちそうになった

『……泣くほど悔しいのに…夕が堪えてたのに…ッ』
「…千夏ッ」

倒れこむみたいに、夕があたしを抱き締めた
抱き込んだ。ってカンジ
夕の腕が、肩が、小刻みに震えていた

耳元で、夕の声がした
いつもみたいに明るい声じゃなくて、今にも大声で泣き出しそうな声


「俺…甲子園出てぇっ…」
『……っうん…』
「出てぇよ…ッ」
『うん…』
「…悔しいよ……っ」

『…うん…っ』

耳元で、夕のすすり泣く音を聞きながら、伝わってくる夕の熱が、熱かった
きっと、投げれなくても、打てなくても
そんなの分かってても、無茶で、空回りなのも分かってるけど
1人で投げ込みをして
1人でバットを振っていたんだろうなぁ


夕があたしの背中を掴むみたいに抱き締めるのをマネして
あたしも、夕の背中をぎゅっと抱き締めた
< 140 / 273 >

この作品をシェア

pagetop