動き出した、君の夏
「…ん、千夏ー?」

振り返った夕のユニフォームは真っ黒だった
いくら野球好きだって、練習でヘッドスライディングしなくてもいいのに

足も、腕も、顔も
真っ黒で、汗が滲んでいた

肩からかけたエナメルバッグにも薄茶色の砂が付いていた
そして、右手に持った黒いスパイク袋
スパイク袋もユニフォームもボロボロだった

何回そのスパイクを履いたんだろう
何回そのユニフォームを破ったんだろう



セミの鳴き声が、遠くに感じた



『ううんっ。てか夕速いっ;』

笑顔で、夕を追いかけた




どうか、そのスパイク袋に
君が涙を流しながら砂を詰めることがありませんように








「そっかー。同じホテルなんだなー♪」
『何その笑顔』
「んー?何も無ぇよー?」
『嘘っ!!』


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