動き出した、君の夏
顔を右にひねると、すぐ目の前に緑のネットが見えた
明るいライトに照らされて、ネットの向こうに立っている人が黒く影になった

『……夕?』

そうだ。夕だ
ツンツンで少し長い髪形
あの身長
正(まさ)しく夕



ひゅっ

ピッチングマシーンから、速い球が飛び出た

「ふッ」

きんっ

ネットの向こうの君が、思い切りバットを振った
当たりは、少し悪かった

『……』

無意識のうちに、ネットを握ってバットを懸命に振る夕に見入った
野球部は今日もキツそうだったのに…
その途切れない真剣な表情は何?

「…ぁれ、」

眉の少し上がったキリっとした顔が、突然ゆるんだ
何か、こっちを見てるような…

「三村!」
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