白の王
Ⅰとある日の昼下がり
暖かい日差しと心地よい風が吹く中庭の芝生の上。
昼休みが終わった午後の授業真っ只中のその場所は、リッカ・ブランの特等席だった。今日も芝生に寝転がり、気持ちのよい昼寝を楽しんでいる。


リッカ・ブランと聞くと、この学園の人たちのほぼ全員が顔をしかめるか眉を寄せる。
今年で創立200年を誇る王立魔法学園史上最大の問題児だからだ。
試験の成績が悪いとか、特別素行が悪いわけでもない。むしろ、筆記試験は毎回上位を総なめである。
にもかかわらず問題児扱いされているのは、彼が実技の授業に一度も出席しないからだ。

プリシパルト王立魔法学園は魔法を扱えるものを育成する目的で建立された。
元々は日常生活の補助的な意味合いで魔法を使いこなせるように、そして国が運営する教育機関の第一号として試験的に作られた学園であったがその在り方はこの200年で大きく変わった。
魔物の登場と近隣諸国との関係悪化。
カリキュラムには戦闘訓練が組まれ、戦術や武器を通した魔法の使い方などの授業が多くなった。
王立魔法学園を卒業したものの大半は王国お抱えの軍に入る。この学園は軍の養成機関となっていた。

そんな学園で実技科目を受けないリッカは国を守る意思のないものとして軽蔑される存在になっていた。
魔法学園は、5歳の頃に受ける魔力値測定で魔力を有すると示されたものだけが10歳から8年間通うことを義務付けられている。
今年で6年目になるリッカの魔法を見たものは、まだ一人もいない。


リッカはふと目を開けた。
風が変わった。

「...そうか、ありがとう」

そう呟いて、中庭を立ち去った。
リッカの進路に、小さな火の粉が舞い踊った。
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