恋して 愛して 乱して
「…バレバレだって」
あ…その目…
ただ、懐かしかった。優しく綺麗な瞳が、弧を描いて口元を綻ばせる、その仕草が。
やっと、やっと会えた…
私の大好きだった人…
ドクンドクンと、胸は鳴った。あの時のように。
「あっ…」
私は願ってしまう。
「あの…」
あの時の、" 杉村先輩 "がまた見たいと。
「わっ、私…」
「これ」
パサリと顔に押し付けられた一枚の書類。熱を持った頬に冷たい書類が私を現実に連れ戻そうとしていた。
「これは…」
「くも膜下出血の患者」
私はコクリと頷いた。さっき、宮澤さんが言っていたのと同じ書類。その書類を手に取り、ユラユラとした視界の中、ボンヤリと見ていた。
「ここ、見てみ」
細くて長くて綺麗で男らしい指が指した先を目で追う。するとそこには、杉村広貴と書かれていてその他、麻酔科医、助手の医師、看護師の名前がズラリと並んだ最後に、高木真央の名前。
「…えっ、私?」
「ドクターズクラークの資格、持ってたんだな」
持ってる…
ドクターズクラークというのは、医療クラークのお仕事とあまり変わらないが、医師の補佐のようなお仕事をする。側でカルテの管理や、進行を知ることができるお仕事。
でも私、まだ一度もしたことがない…
それに先生との交流もなくて、お話ししたこともないし……
緊張と不安がぐるぐる回っていた時、彼はその書類を取り上げ、私を見た。
「俺の下で、だから」
「…ぇっ」
私は目を見開いてしまった。
「よろしく頼むね、…高木さん」
彼は横目で私を見ながら更衣室に入っていった。