恋して 愛して 乱して
何を躊躇ってるんだ、俺は
足から根が生えてるみたいに動けずにいた。幸いにも、通る人は誰もいない。目だけが、ある一点を見つめられるだけ。
しばらくして、あの男が更衣室から出てきた。俺はあいつが角を曲がるのを確認すると、固くなった足をゆっくりと動かし始め、更衣室のドアノブに手を添えようとした時。
ガチャ…
先に開いたドアに胸を鳴らした。
「ぁ…」
耳がくすぐったくなるくらいの震えた小さい声。綺麗で大きな瞳が俺を見上げる。
ただ、可愛いと思った。
そう思った事を悟られないように平常心を保って真央を見つめる事しか出来ない俺を避けるかのように、真央は目を泳がせた。
「ごっ、ごめん、なさい…」
壁にそって身体をスライドさせ、俯く真央。熟したばかりの果物のように赤くみずみずしい頬が、昔と変わっていなくてどこかホッとした。今すぐに食べてしまえたら、なんて思う。
「酷い顔」
そんな気持ちを抑えるように出した言葉がこれ。
情けないよな?
俺って
顔をどんどん赤くし、俺を見上げる。その瞳に吸い込まれそうだった。