恋して 愛して 乱して
目を泳がせるとき、真央はいつも何かを考えていた。だからなんとなくわかる。
「…今、何言ってんだって思ったでしょ」
案の定、身体をビクッと揺らし、図星だった事を伝えてくれる。そんなところを変わってなかった。
なに、安心してんの、俺
トクントクンと高鳴る鼓動。ただ嬉しくて、身体の奥から熱くなる何かがゆっくりと上り詰める。
「…バレバレだって」
痺れた脳は愛しい者を覚えてる。潤んだ瞳に囚われる前に、我を取り戻し冷静を作った。
やばいな、俺
いつの間にか真央に持ってかれてた
しっかりしろ、俺…
「あっ…あの…」
一生懸命何かを伝えようとしている。聞きたいが、俺は話を逸らそうと手元の書類の存在を思い出した。
「わっ、私…」
「これ」
俺はこれ以上見てはいけない真央の瞳を隠すように書類を押し当てた。少し触れた柔らかい前髪がくすぐったい。
「これは…」
「くも膜下出血の患者」
明らかに目がボンヤリしている。
「ここ、見てみ」
とにかく伝えたかったこと。俺は指を指して示した。
「…えっ、私?」
「ドクターズクラークの資格、持ってたんだな」
ピクッと身体を揺らし、また何かを考えていた。少し真剣な表情をした顔は、俺の知らないところで変化した真央を物語っている。悔しさが込み上げてくる。
俺だって、こんなことになるとは思っていなかったんだ
俺はそっと想いを胸にしまった。
「俺の下で、だから」
「…ぇっ」
「よろしく頼むね、…高木さん」
俺は更衣室に入った。真央を一人残して。我ながら胸が痛んだ。