恋して 愛して 乱して



「この患者さんの持病に気にして……」


くも膜下出血の患者さんの事についての話し合い。初めて見るドクターさんから、馴染みのあるドクターさんまで様々な人達総勢20名程か集結している。プロジェクターを前に、乾く目を擦りながら聞いていた。

「はじめにこの神経は…」

前で話すのは杉村先輩。このオペに参加できる看護師たちの目当てでもある。


『高木さんズルーイ、ドクターズクラークで〜〜』
『いや、でも……』
『ずぅーっと杉村先生と近くにいれるじゃーん』


廊下で言われた事。

正直、わからない
どう関わればいいのか…

仕事とはいえ、難しい。一回、心と身体の関係を持ってしまった相手と、また面と向かって関わる事は。

「……それでは、ここまでが大まかな流れになっています。何か、質問等はありますか?」

ハッとして顔を上げると、プロジェクターの前に立つ杉村先輩の目が合う。

あっ…

急いで目をそらす。音を鳴らす胸を必死に抑えた。

「…ないようなので、また内容を煮詰めたらお伝えします。何かありましたら個人的に私に言いに来てください」

ありがとうございましたと頭を下げた先輩になぜか拍手が起こった。

どうしよう
私、あんまり聞いてなかった…

周りの空気から浮いていた私。初めてなだけあってよく理解してない状況。話し合いはこれで終わりらしく、周りのドクター達は退出するか、杉村先輩の元に駆け寄っていた。

「素晴らしい展開だよ!驚いた!」
「まさか、ここまでうちの病院のドクターと設備を理解してるとは!」
「無駄がなく、短時間で終わりそうだ!」

囲まれた先輩は嬉しそうに笑っていた。昔、空手の全国大会出場が決まった時のように。

少し、安心した。


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