ウソ夫婦
「……昨日のことって?」
颯太がコーヒーを一口飲む。
「だからっ昨日……わたしの部屋で」
「部屋? 何それ。夢でも見たのか?」
し、しまったーっ。
先に「実は夢だった」作戦を発動されてしまった。
「夢じゃないもの」
「ふうん、で? 俺が何したって?」
「颯太さんが、部屋にきて、その、あの、わたしを……」
ほぼパニックに陥っている翠と対照的に、颯太はこの状況を楽しんでいるみたいだ。
「わたしを?」
颯太がにやりと笑う。
「だから、わたしを、押し、倒して……」
顔を真っ赤にしながら、翠は言った。
颯太はテーブルに頬杖をつく。今や全身を真っ赤に染めている翠を眺めて、それからおもむろに「欲求不満だろ」と言った。
「なっ」
「そんな夢を見るなんて、欲求不満だっていうの」
「夢じゃないもん」
「だって、俺してないし、そんなこと」
「嘘つけ」
「証拠は?」
翠はぐっと詰まる。
「ないだろ?」
颯太が「ほらみろ」というように、冷たい目線を投げてくる。
「欲求不満なら、抱いてやるって言ってるのに。なんなら今夜、本当に部屋に行ってやる」