ウソ夫婦

「……昨日のことって?」
颯太がコーヒーを一口飲む。

「だからっ昨日……わたしの部屋で」
「部屋? 何それ。夢でも見たのか?」

し、しまったーっ。
先に「実は夢だった」作戦を発動されてしまった。

「夢じゃないもの」
「ふうん、で? 俺が何したって?」
「颯太さんが、部屋にきて、その、あの、わたしを……」

ほぼパニックに陥っている翠と対照的に、颯太はこの状況を楽しんでいるみたいだ。

「わたしを?」
颯太がにやりと笑う。

「だから、わたしを、押し、倒して……」
顔を真っ赤にしながら、翠は言った。

颯太はテーブルに頬杖をつく。今や全身を真っ赤に染めている翠を眺めて、それからおもむろに「欲求不満だろ」と言った。

「なっ」
「そんな夢を見るなんて、欲求不満だっていうの」
「夢じゃないもん」
「だって、俺してないし、そんなこと」
「嘘つけ」
「証拠は?」

翠はぐっと詰まる。

「ないだろ?」
颯太が「ほらみろ」というように、冷たい目線を投げてくる。

「欲求不満なら、抱いてやるって言ってるのに。なんなら今夜、本当に部屋に行ってやる」

< 104 / 197 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop