ウソ夫婦
いやいや、あれは夢じゃなかった。
図書館についてから、翠は確信を強めた。
いくら私の頭が忘れっぽいといえども、昨夜のことは思い出せる。
はっきりと、確実に。
あの男は、嘘をついてごまかしてるのだ。
「さて」
翠は小さくつぶやき、腕を組んだ。
ここ何日かで集まった情報を整理してみよう。
どうやら、私には「大切な人」がいたらしい。プロポーズされるほどの親密な付き合いの誰か。夢の中の男性は、おそらく記憶の断片で、あの人が「大切な人」にちがいない。
さて、周りに、そんな金髪男性がいるのか。
翠は首を振る。
いない。いるのは、黒髪のいけすかない男だけ。
ただし、この黒髪の男はいろいろと自分に嘘をついている。
まず、私の『夫役』を受けるとき、さも仕方がなく受けたと言っていたが、実は必死こいて『夫役』をゲットしていた。
加えて、ジェニファーは『プライベートと仕事を分けろ』と言っていた。『彼女があなたの……』っていいかけて、颯太に激しく遮られていた。
この『……』の先は、私には絶対に知られたくないプライベートな出来事がある、ということだ。
「なんだろ」
翠がつぶやくと「どうしたの?」とのぞみが尋ねてきた。