ウソ夫婦
『秘密を暴くな』
そんなことを言われてもなあ。
失われた時間を取り戻さないと、元の生活に戻れない。颯太の嘘と夢の中の人物、そして事件。すべてが繋がっているような気がする。いや、どうかな。繋がってないかも。でもなあ。
堂々巡りを繰り返す。
そもそも、どうしてぜーんぶ忘れちゃったんだろう。事件のことだけじゃなくて、前後のことすべて。
「おい」
「はい?」
「何考えてる?」
「別に」
運転席に座る颯太をちらっと見る。
『昨日はなにもありませんでした』を貫くつもりだな。ベッドに私を押し倒して、キスまでしたくせに。
突然、昨日の出来事が鮮やかに頭の中に蘇った。壊れたポンプみたいに、心臓がおかしいことになる。
「顔赤いぞ」
「赤くありません」
颯太が軽く笑ったのが気にくわない。翠はぷいっと横を向いた。
駐車場に入れるとエンジンを切る。
翠は答えの出ない一人問答を、ずっと頭の中で続けていた。
聞いちゃう? あなた本当は誰ですか?って。でもこの秘密を暴いたら、取り返しのつかないことが起こったりして。
「ついたぞ」
「……」
「おいって」
「ああ、そっか」
翠は扉を開こうとしたが、ぐんと席に引き戻された。