ウソ夫婦
「ん?」
翠は我に返った。
「シートベルト」
颯太が隣で笑っている。
「ああ」
翠がそう言うと、颯太が身体を翠に伸ばした。
「取ってやる」
翠の前に、颯太の身体が近づく。コロンの香りがふわっと空気に散って、翠は自然と身体を硬くした。
颯太はシートベルトを外すと、代わりに自分の腕で翠が立ち上がれないように塞いだ。
「夢の俺は、こんな風に近かった?」
あの瞳で見つめられる。
翠の心臓はもう暴走寸前で、息ができなくなる。
「どんな風にしたんだ? 教えろよ」
颯太の顔が翠に近づく。
昨夜の映像と、今目の前で起こる出来事が、重なった。
「あ……」
キスされるっ。
「せっ、セクハラ捜査官っ」
翠は叫んで、思い切り颯太を突き飛ばした。
「いでっ」
颯太がダッシュボードに勢い良く当たる。
弾みでボードが開き、中身が見えた。
「あ」
颯太が『しまった』という顔をする。
翠は、ダッシュボードの中身を見て凍りついた。