ウソ夫婦

一人きりになると、とたんに心細くなる。あれほど離れたいと思っていた人に、今は早く帰ってきて欲しいと思っている。

「何しよう……」
翠は部屋の真ん中で立ち尽くした。

そこで、翠はごくごく小さくピッピッピッという音に気付いた。

「……めざまし?」
翠は音のなる方を探して、リビングのあちこちを覗いて回った。

翠の部屋の横にある、颯太の扉の前で立ち止まった。

ピッピッピッ。

颯太の部屋の中から、そのかすかな音は鳴っていた。

「なんだろう……」
翠は一度、リビングのテーブルの前に引き返した。颯太の部屋に入ったことは今まで一度もなかったからだ。

ピッピッピッ。

一度気になり出したら止まらない。翠は颯太の部屋を見ると、再び正面を向く。

やっぱり、無断で部屋に入っちゃいけないわよね。でも……気になる。

翠はしばらく考え、立ち上がった。颯太の部屋の扉を、静かに開く。

翠の部屋とほぼ同じ作り。ベッドに、机。朝日が部屋に差し込み、蒸し暑かった。

ピッピッピッ。

ベッドの上に、開いたノートパソコン、その横に無造作に資料の束が置かれていた。めざましのようなその音は、ノートパソコンから出ているようだった。

翠は部屋に足を踏み入れ、ベッドに歩み寄った。

起きたばかりというような、シワのよったシーツ。いつも冷静で気をぬいた様子を見せない颯太の、素の部分を見た気がして、翠は小さく微笑んだ。

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