ウソ夫婦
コンピュータには、追跡アプリが立ち上がっているようだった。対象者は、今、この部屋にいる。
「これ、私だ」
翠は結婚指輪を触って、くすっと笑う。
資料のファイルが目に入った。『Top Secret(極秘)』と書かれている。
見てはいけない。
翠の理性が好奇心を押しとどめる。
でも、思い出すヒントが何かあるかもしれないじゃない? 何かのきっかけが……。
翠は資料を手に取った。
少し緊張しながら、ファイルを開く。
『The Lists of Suspects(容疑者リスト)』という文字。
そして、自分の顔が目に飛び込んできた。
翠は、ファイルを取り落とした。
容疑者? 私が?
翠は予想外のことに、しばらく動けない。けれど、思い切ってファイルを拾い上げた。
ページの一番最初に、翠の顔写真。
第一容疑者だ。
「うそ……」
翠の手が震えだした。
颯太に、疑われている。
翠はファイルを投げるように元に戻すと、颯太の部屋を飛び出した。