ウソ夫婦

あの粘着質捜査官に比べれば、笹橋なんか屁でもない。

翠はそう考えて、少し気持ちが楽になった。

贅沢は言わない。せめて二時間、いや、一時間でいい! あの男から離れて、自由を満喫したい。

机の上の山積みの本を開きながら、どうやったら逃げられるかを思案する。

この結婚指輪。愛の証でもなんでもなく、ただのGPSだ。すぐに位置がばれてしまう。一度外したら、すぐにあいつがやってきて『はめろ』と命令してきた。どうやら、翠の心拍までこの指輪で測れるらしい。

図書館内には、いたるところにカメラが仕込まれていて、何をしているのか、すべて知られている。一度うとうとしていたら『給料泥棒』とメールが入った。

いちいち、言葉が、ムカつくのよね。
『おつかれさま』とか、言ってくれたら、もう少し優しくできるものを。
あいつ、絶っ対友達いない。

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